2011年10月17日

間・交通・生成・芸術・成仏(9) (篠原資明「あいだ哲学論考」)

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以上は著者の原理論についての疑問点であったが、次に本論文の個別の論点について吟味していきたい。本論文の基本的な主張の一つは、風雅つまり芸術は自然を友として新しみつつさびしむことだということである(参照p. 191)。しかし、この主張には以下のように多くの問題があるように思われる。

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第一に、「自然を友とする」とはどういうことかが明らかでない。著者は、空海の詩を解釈して「……、考えようによっては、雷だって、無常を核とする点で、仲間と見ることもできるではないか」と言い、「……、寂1「ひとり無常」→寂2「みな無常」→寂3「みな生成」という深まりは、自然を友とする道を切り開くように思われるからだ」と述べる(p. 190)。そして、自然を友とする芸術家の例として、芭蕉(p. 191)、デ・マリア、およびライプ(p. 194)をあげている。さらに、ポストモダニズムは過去を友とすることであり、モダニズムは色や音や言葉それぞれの質を友とすることであり(p. 195)、西脇順三郎は植物を、空海は雷を(p. 196)、宗左近は夜の虹を(p. 200)友としていたとする。

しかし、これらの説明は次の点で十分に説得力のあるものではない。第一に、「寂1「ひとり無常」→寂2「みな無常」→寂3「みな生成」という深まり」は空海の詩の一部から著者が解釈したことであって、作者の空海以外の芸術家に当てはまるとは考えられないし、またそもそも空海本人に当てはまるかも疑わしい。空海の詩の本論文での引用部分は次の通りである。

一身独り生歿す
電影是れ無常なり
遮那阿誰が号ぞ
本是れ我が心王なり


私は空海の専門家ではないが、これを読む限りではとても自然への友人としての親しい態度を示しているとは思えない。特に、「寂3みな生成」は著者個人の考えであって、空海によるものとは言えない。(p. 190の「さらに考えを進めてみよう」はそういうニュアンスであろう。)つまり、空海は風雅に至っていないのである。この点で著者の主張は説得力に欠けるだけでなく、読者に対してミスリーディングであると考えられる。

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第二に、友とする対象が大きく異なっているのが奇妙である。すなわち、自然を友とすることと、雷を友とすること、植物を友とすることはそれぞれ相当に違うことであろう。少なくとも、雷を友としても雷以外の自然の事物を友としないなら、自然を友とするとは言えないだろうし、植物を友とすることについても同様であり、もちろん、雷を友とすることと植物を友とすることにもまた共通点がほとんどないように見える。また、宗左近と夜の虹の関係もまた特殊であるように見える。宗が夜の虹について語るテキスト(『美の中の美』スカイドア(1992))は、竜安寺石庭を薬師寺東塔と比較し、後者が「凍れる音楽」と評されたこと(宗は和辻哲郎がそのように評したと同書で繰り返し述べている)から、夜の虹へとおそらく連想によって言及したものである。その箇所は短く断片的で、そこでの夜の虹はイメージやイマジネーションの産物であるように読める。もしそうなら、その夜の虹は現実の自然ではないことになり、それを友とすることの意味が変わってくるだろう。さらに、過去を友とすることや、「色や音や言葉それぞれの質」を友とすることはどういうことであるか、比喩的な意味でなければ理解し難い。(著者は宗についてだけは「いわば友とした」(p. 200)と比喩的なニュアンスをこめて言及している。)しかし、もし、これらが比喩として語られているなら、哲学的な説明としてはきわめて不明確である。

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第三に、デ・マリアやライプの作品が「自然を友とする行き方」の例になるかが疑問である。著者によれば、デ・マリアの作品《雷原》はステンレス・ポールに雷を誘導するものであり、ライプの作品は花粉を集めたものである。しかし、これらは単に自然の事物を利用しているだけではないか。少なくとも、自然を友とすることが芭蕉の言うように「造化に随いて四時を友とす」る(p. 192)ことだとすれば、それにこれらが当てはまるとは言えない。むしろ、これらは近代西洋の芸術観や芸術についての諸制度(美術館やアカデミズムなど)を踏まえた上での新しい工夫であり、直接には空海や芭蕉の芸術観と同列に扱えないものと解すべきではないか。以上から、著者の「自然を友とする」という表現は非常に曖昧であり、おそらく一貫した意味を持っていないと思われる。
posted by 三好 at 04:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 哲学書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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