2011年10月17日

間・交通・生成・芸術・成仏(4) (篠原資明「あいだ哲学論考」)


芭蕉は西行の「とふ人も……」という歌について「さびしさをあるじなるべし」と解している。さびしさをあるじとすることから、新しみつつさびしむというありようとは別の、もっと重要な生成のありようが見えてくる。いまかつて間の異交通の立場からすれば、さびしさをあるじとするとは、過去性に重きを置くことを意味する。このありようを、さびしみつつ新しむというふうに定式化することにしよう。さびしみつつ新しむということ[の一例は]、死を目前にした人生パノラマ回顧である。これは、死を目前にするや、人はさびしむほかなくなるのだと解釈できる。ただ、さびしむことに徹することによって、それまでにない新しみへと変成できる。[?根拠提示なし]このようにさびしみつつ新しむことを、成仏と呼ぶことにしよう。愛する者や親しい者を失ったとき、そういった死者たちをひたすらさびしむとき、さびしまれる〈かつて〉は、わが身の生きる〈いま〉を共時的になにか新たなありように変成されるように思われる。[?根拠提示なし]わが身もまた、死者たちをさびしむことによって新しむ、すなわち成仏する。

バルトの『明るい部屋』は、写真の本質を〈かつてあった〉に見いだし、〈いまここ〉しか知らなかった人間世界に、はじめて〈かつてここ〉を知らしめたメディアとして写真の画期的な意義を説いた。その論述に決定的な役割をはたすのはまだ幼い母の写真だった。バルトはさびしむメディアとして写真を評価した。ただ、バルトの時間論はあくまで直線的なものでしかなかった。しかし、写真の映像は〈いまここ〉に現前するのであり、バルトの亡き母はその映像と共時的にさびしまれるほかない。このように、いまかつて間の異交通論の立場からすれば、バルトの時間論は受けいれがたい。そうであるにせよ、さびしむという位相の重要性を写真論という立場から照らしだしたことは評価されねばなるまい。

〈かつて〉は〈いま〉と共時的であり、いまかつて間の異交通も生起しうる。それでも、〈かつて〉が〈いま〉に現前できるわけではない。そのような意味で〈かつて〉はさびしまれるほかない。[慙愧の念とともに思いおこされる過去である]くやしまれる〈かつて〉は、ああすればよかったとの思いと不可分である以上、別様の〈かつて〉を増殖させる。別様でありえたかもしれないという痕跡の過剰をこうして過去は引きずっている。過去をさぴしむとは、なつかしまれる過去もくやしまれる過去もより深いところ[?不詳]から肯定し、さらには、痕跡の過剰からする別様の展開[?不詳]も含めて、肯定すること[?不詳]を意味しよう。[?根拠提示なし]

どのようなプロセスも一直線には進まない以上、別様でありえたかもしれないという残滓を残すのであり、その残滓が事実、別のプロセスを生む。[?不詳]だからこそ、生命の世界は多様な生命体で満ちみちており、物象はそれぞれのあいだに差異を示す。いま述べたプロセスのありようは、いまかつて間の異交通のありようでもある。[?不詳]風雅が容易に成仏と連接しうる[?不詳]のも、そのことによる。友とされる自然はさびしみにもとづいてこそはじめて友として肯定されるからだ。[?不詳]

20世紀以後そのような風雅と成仏との連接のありようをもっとも大きなスケールで示したひとりが宗左近だった。宗の思想を要約すれば、「さびしむゆえに転生す」といいかえられる。輪廻転生の哲学がその根底にある。すぐれた芸術家たちは「おのれを宇宙エネルギーの媒体者として生きるために死ぬ」のであり、宗の「わたしの縄文人」はそのような「宇宙エネルギーの媒体者として」宗自身の〈いま〉に転生した死者たちのありようにほかならない。そうして、死者たちとともに自らも転生すべき「宇宙海」を夢見つつ創造した、いいかえれば新しんだのである。[?不詳]

死に際しての成仏を小成仏、死者をさびしむことによる成仏を中成仏とすれば、わが身の過去の肯定から万象の過去の肯定まで広がりゆき深まりゆく成仏を大成仏と呼べる。
posted by 三好 at 04:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 哲学書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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