2011年10月17日

間・交通・生成・芸術・成仏(3) (篠原資明「あいだ哲学論考」)


明治以前の日本で複数の芸術ジャンルを包括する語は風雅の語であった。


17世紀にヨーロッパでは近代的芸術観の根幹をなす思想が生まれつつあった。とりわけフランシス・ベーコンに発する、想像力を詩に割りふる考え方は、想像力を芸術全般の担い手とする考えへと展開されていく。このような流れを極限まで推しすすめ、20世紀前半のクローチェは主体が想像力でカオスに形を賦与するという芸術観を最高度に明確化した。この形賦与の単交通論的美学こそ、〈形のモダニズム〉の哲学的基礎となる。

17世紀にはそのような近代美学の王道を形成した流れと別に、重要な萌芽が二つ見出される。グラシアンに代表される才知論と芭蕉に代表される風雅論である。グラシアンの才知論はベーコンの能力論と同じくウアルテ『諸学のための才知の検討』(1575)を根として持つ。16世紀には人間知性は才知と呼ばれていた。17世紀になると才知は美をめざす能力とされ、想像力と競合して使われるようになった。18世紀以降になると才知は駆逐され、想像力に一本化される。16世紀は新しさの評価が広がりはじめる時代であった。グラシアンになると、新しさの評価も加速される。グラシアンは近代と新しさの結びつきをはっきりと自覚した一人でもあった。その一方でグラシアンは「古代のきわめて広やかな劇場」は「幸福な記憶」として現前するという。このタイプの新しみ方を、新しみつつなつかしむという風に呼べる。グラシアンも芭蕉も新しさをきわめて評価する。しかし、新しさの追求が、前者においては古いものの評価と相携え、後者においては自然の評価と相携える。

現代はポストモダニズムを通過した、ないしは通過しつつある時代である。ポストモダニズムは引用を評価し、形の独創性を一種の神話として切り捨てようとする。モダニズムが形の新しさを競う〈形のモダニズム〉である限り過去を克服し、極端な場合にはさげすもうとするのに対して、ポストモダニズムは〈引用のモダニズム〉として、新しみつつなつかしむ。形賦与の単交通論的美学、およびその帰結としての〈形のモダニズム〉への異議申し立ての別のあり方の例として、マリアの《雷原》やライプの花粉による作品があげられる。《雷原》は広大な地域に立てられた400本のステンレス・ポールからなり、そこに雷を誘導することに意味がある。ライプの花粉による仕事は花粉を集めることに意味がある。

これらに見られるのは、何らかの自然を友とする行き方[?定義なし]にほかならない。自然を友とすることこそ風雅と呼ばれてきたものだった。今日、さまざまなやり方で試みられる、自然を友とする芸術のあり方を〈風雅モダニズム〉と[著者が]呼ぶゆえんである。おまけに、そういった作品はある種のはかなさを否定せず、はかなさ自体を[作品に?]組み込んでいる。そのこともまた、自然を友として新しみつつさびしむという風雅の定義にかなう。

写真の役割について。写真は作者主体による能動的な形成を特権化する傾向に強く異をとなええた。写真の場合、生成に居あわせるという点に妙味があり、作者による形の賦与は二次的なものでしかないからだ。写真作品そのものが風雅モダニズム[ここは〈〉なし]として提示されうる。[?不詳]

[著者は]あいだ哲学と交通論の立場から芸術を異交通装置として定義してきた。〈風雅モダニズム〉の場合、自然を友とするとは、人と自然の異質性を保持しつつ、さらなる異質性を生成させること[?不詳]にほかなるまい。こうして、自然の感取の仕方も芸術の感取の仕方も変質する。[?不詳]また、ポストモダニズムを、過去を友とすることとして再定義するなら、引用という行為によって、引用を取りこむ側の現在の作品も変われば、引用される側の作品の見方も変わる。〈形のモダニズム〉は、色や音や言葉それぞれの質を友とする行き方としてとらえなおすことができる。[?不詳]

西脇は植物を友とする詩人であった。そうすることで、彼は詩の言葉の風景[?不詳]を変質させて[?不詳]しまったが、植物という自然の見方をも変えてしまった。

自然を友とするといっても、馴れあうことばかりをいうのではない。雷と馴れあうことは不可能だが、雷を友とすることで人のありようが以前とは異質な何ものかへと変質するとともに、雷の感じ方もがらりと変わってしまうことは、充分にありうる。空海も雷を友とすることで深い悟りへと到入しえた。この場合、風雅と密接な関係をもつはずの別の位相が問題となる。
posted by 三好 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 哲学書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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